日本映画レトロスペクティヴ・今村昌平特集
日本映画レトロスペクティヴ・今村昌平
2010年9月28日~10月9日
主催者:
国際交流基金
在ロシア日本国大使館
国立中央ムゼイ・キノ
中央芸術家会館
«セカチ・ギャラリー»
クラスノヤルスク博物館センター
上映スケジュール
中央芸術家会館、映画コンサートホール
開始時間:19:30
「西銀座駅前」、1958年、52分
「盗まれた欲情」、1958年、92分
9月29日(水)
中央芸術家会館、映画コンサートホール
開始時間:19:30
「果たしなき欲望」、1958年、101分
9月30日(木)
中央芸術家会館、映画コンサートホール
開始時間:19:30
「豚と軍艦」、1961年、108分
中央芸術家会館、映画コンサートホール
開始時間:19:30
「にっぽん昆虫記」、1963年、123分
10月2日(土)
中央芸術家会館、映画コンサートホール
開始時間:16:00
「赤い殺意」、1964年、150分
中央芸術家会館、映画コンサートホール
開始時間:19:30
「エロ事師たちより 人類学入門」、1966年、128分
中央芸術家会館、映画コンサートホール
開始時間:16:00
「人間蒸発」、1967年、130分
中央芸術家会館、映画コンサートホール
開始時間:18:30
「神々の深き欲望」、1968年、175分
10月5日(火)
中央芸術家会館、映画コンサートホール
開始時間:19:30
「にっぽん戦後史マダムおんぼろの生活」、1970年、105分
中央芸術家会館、映画コンサートホール
開始時間:19:30
「復讐するは我にあり」、1979年、140分
10月7日(木)
中央芸術家会館、映画コンサートホール
開始時間:19:30
「ええじゃないか」、1981年、151分
10月8日(金)
中央芸術家会館、映画コンサートホール
開始時間:19:30
「楢山節考」、1983年、120分
中央芸術家会館、映画コンサートホール
開始時間:17:00
「うなぎ」、1997年、117分
2010年11月9~16日
今村昌平映画レトロスペクティヴは、クラスノヤルスク博物館センターで開催します。
(クラスノヤルスク市、ミラ広場、1番地)
中央芸術家会館・映画コンサートホール
住所:モスクワ、クリィムスキー・ヴァル 10、地下鉄のオクチャブリスカヤ駅、パルク・クリトゥリ駅
問い合わせ電話番号:+7 (499) 230-17-82(中央芸術家会館のコンサートホール)
+7 (495) 626-55-83(国際交流基金文化事業部)
入場料:100ルーブル
* * *
映画のあらすじ
盗まれた欲情
1958年/92分/白黒
スタッフ
監督: 今村昌平
製作: 大塚和
原作: 今東光
脚色: 鈴木敏郎
撮影: 高村倉太郎
音楽: 黛敏郎
キャスト:長門裕之 (国田信吉)、南田洋子 (山村千鳥)、滝沢修(山村民之助)、西村晃 (高田勘次)高原駿雄(加藤永助)
解説:
今東光の「テント劇場」を、鈴木敏郎が脚色したもので、監督に昇進した今村昌平の第一回作品。撮影は「錆びたナイフ」の高村倉太郎。主演は「夫婦百景」の長門裕之、「麻薬3号」の南田洋子、それに劇団四季の喜多道枝が抜擢された。その他、滝沢修、柳沢真一、小沢昭一、高原駿雄などが出演。
物語:
中河内高安村にドサ回りのテント劇場、山村民之助一座がやって来て大入満員、座員は大喜びだ。一座の演出家国田信吉は芝居一途に大学を中退した情熱家で、自分の新解釈により演し物を上演しようと夢見ている。彼に想いをよせる民之助の娘千鳥と千草、千鳥は看板スター栄三郎の妻だが、ひそかに恋情をもやしている。大入りの夜、祝宴を逃げ出した信吉は、ほとほと低俗な一座に嫌気がさし、自らを罵って川に石を投げる。追って来た千草は、そんな彼に抱かれた。翌日は雨、民之助が信吉の新作を稽古しようと提案するにもかかわらず、一座は女を求めて村へ散ってしまう。千鳥は妹の昨夜の行動から、暗い嫉妬をもやすのだった。信吉も愛する千鳥ならぬ千草と契った後悔に、酔いつぶれるのだった。翌日は再び大入り満員。信吉は千鳥に自分の心を打ち明け、彼女も遂に拒み切れなかった。しかし、それを発見した千草の口から、栄三郎が知るところとなる。
西銀座駅前
1958年/52分/白黒
スタッフ
監督・原案・脚本:今村昌平
企画: 茂木了次
撮影: 藤岡粂信
音楽: 黛敏郎
美術: 中村公彦
キャスト:
フランク永井(歌とジョッキー) 、柳沢真一(大山重太郎)、 山岡久乃(大山理子)、 山根恵子(大山あかね)、島津雅彦(大山武)、西村晃 (浅田康)、 初井言栄(浅田ヒサ)、 堀恭子(五十嵐ユリ)
解説:
フランク永井のヒット・メロディを素材にした歌謡コメディ。撮影は「羽田発7時50分」の藤岡条信。柳沢真一・西村晃・小沢昭一・堀恭子らにフランク永井が歌とジョッキーに出演。
物語:
さざなみ薬局は西銀座駅前、数寄屋橋センター商店街の一角にある。理子夫人は薬剤師で、旦那の重太郎氏は夫人の尻に敷かれっぱなしの恐妻家、他に子供が二人ある。重太郎には奇病があった。昔、彼が南方戦線で奮戦中、ふとしたことからチャリ島に漂流し、島の娘サリーと束の間の恋をした。その楽しい幻想が、時々現実と混乱してしまう、という病気で、不思議なことにサリーの顔が、前の万年筆店員ユリにそっくりだった。重太郎の親友で獣医の浅田は、浮気が唯一の薬と診断した。ある日理子は浅田夫人のヒサと湘南の海浜に遊びに出かけた。二晩の自由を得た重太郎は、浅田にけしかけられて、浮気を試みるが・・・。
果しなき欲望
1958年/101分/白黒
スタッフ
監督: 今村昌平
原作: 藤原審爾
脚色: 鈴木敏郎、今村昌平
企画: 大塚和
撮影: 姫田真佐久
音楽: 黛敏郎
キャスト:
長門裕之(悟)、 中原早苗 (リュウ子)、西村晃(中田)、殿山泰司(大沼)、 小沢昭一(沢井)、 加藤武(山本)、 渡辺美佐子(志麻)、菅井一郎(大乃湯金造)
解説:
時価六千万円のモルヒネ発掘をめぐって、欲につかれた人間の醜さ滑稽さを描くスリラー・コメディ。オール読物所載藤原審爾の原作を、鈴木敏郎・今村昌平が脚色。撮影は「赤い波止場」の姫田真佐久。「続 夫婦百景」の長門裕之・中原早苗に、渡辺美佐子・西村晃・小沢昭一らが出演。
物語:
八月十五日-ある駅のホーム。胸に星のマークをつけた五人の奇妙な人物が集った。彼らの目的は終戦の日に、軍医橋本中尉がこの町の防空壕に埋めたモルヒネを掘り出すことだった。橋本中尉は十年後に従卒三人と山分けすると約束していた。集った五人は、すでに死亡した橋本中尉の妻と称する妖艶な女志麻、薬剤師の中田、大阪の中華料理店主大沼、ヤクザの山本、それに中学校の教師と名乗る沢井。それは約束より一人余計だった。
豚と軍艦
1961年/108分/白黒
スタッフ
監督: 今村昌平
脚本: 山内久
企画: 大塚和
撮影: 姫田真佐久
音楽: 黛敏郎
キャスト:
長門裕之(欣太)、吉村実子(春子)、三島雅夫(日森)、丹波哲郎(鉄次)、大坂志郎(星野)
あらすじ:
米海軍基地。軍艦が入ると、水兵相手のキャバレーが立ち並ぶ町の中心地ドブ板通りは、俄然活気が呈してくる。ところが、そんな鼻息をよそに青息吐息の一群があった。当局の取締りで、根こそぎやられてしまったモグリ売春ハウスの連中、日森一家だ。ゆきづまった日森一家は、豚肉の払底から大量の豚の飼育を考えついた。ハワイからきた崎山が、基地の残飯を提供するという耳寄りな話もある。ゆすり、たかり、押し売りからスト破りまでやってのけて金をつくり、彼らの"日米畜産協会"もメドがつき始めた。流れやくざの春駒がタカリに来た。応対に出た幹部格で胃病もちの鉄次の目が光った。たたき起こされたチンピラの欣太は、春駒の死体を沖合いまで捨てにいった。「欣太、万一の場合には代人に立つんだ。くせえ飯を食ってくりゃ、すぐ兄貴分だ。」という星野の言葉に、単純な欣太はすぐその気になった。彼は恋人の春子と暮らしたい気持ちでいっぱいだったが、春子はこの町のみにくさを憎悪し、欣太には地道に生きようと言って2人は喧嘩した。ある夜、豚を食った一家の連中は、春駒の死体をその豚に食わせたと聞き、口をおさえてとび出した。鉄次は血まで吐いた。鉄次の入院で日森一家の屋台骨はグラグラになった。日森一家は組長の日森と、軍治・大八とに分裂。両者とも勝手に豚を売り飛ばそうと企み、軍治たちは夜にまぎれての運搬を欣太に命ずるのだが・・・。
にっぽん昆虫記
1963年/123分/白黒
スタッフ
監督: 今村昌平
脚本: 長谷部慶次 今村昌平
企画: 大塚和 友田二郎
撮影: 姫田真佐久
音楽: 黛敏郎
キャスト:
左幸子(松木とめ)、佐々木すみ江(松木えん)、北村和夫(松木忠次)、小池朝雄(松木沢吉)
あらすじ :
とめは、母親の松木えんが忠次を婿にもらってニヵ月目に生まれた。母の乱れた生活の中でとめは育っていった。昭和十六年二三歳で、とめは高羽製紙の女工となったが日本軍がシンガポールを落した日、とめは実家に呼び返され、地主の本田家に足入れさせられ、出征する俊三に無理矢理抱かれた。翌年の秋とめは信子を生み、本田の家を出て、信子を預け再び高羽製紙に戻った。終戦を迎えて、工場は閉鎖となり実家に帰ったが、再開した高羽製紙に戻り、組合活動を始めた。過激なとめの活動は、会社に睨まれ、高羽製紙をクビとなったとめは七歳になった信子を忠次に預け単身上京した。松川事件で騒然とした時であった。基地のメイドや売春宿の女中と、体を投げ出すとめの脳裏を、信子の面影が離れなかった。宮城前広場でメーデー事件があった数日後基地のメイド時代に知り会ったみどりに会い、とめも共に外で客をとるようになった。信子への送金を増すためであった。問屋の主人唐沢がとめの面倒をみてやろうと言い出したのは、丁度こんな時だった。新しくコールガール組織を作ったとめは、どうやら生活も楽になり、念願の忠次と信子を故郷から呼んだ。しかし、それもつかの間心の支えであった忠次は亡くなりそのうえ、とめは仲間の密告から売春罪を課せられ刑に処した。刑期を終えたとめを今は唐沢の情婦となった信子がむかえた。恋人の上林と開拓村をやる資金欲しさに唐沢に体をあたえたのだ。契約期間が過ぎると信子は故郷へ帰り上林と開拓村をはじめていた。唐沢の店を持たしてやるからとひきとめる言葉を胸にとめは故郷の土を踏んだ。健康な二人を前にして、やはりとめの心は店をきりもりする安楽な母娘の姿を描いていた長い間の人生の波にもまれたとめが、最後にもとめたささやかな夢だったのだ。
赤い殺意
1964年/128分/白黒 ワイド
スタッフ
脚本: 今村昌平 長谷部慶次
監督: 今村昌平
撮影: 姫田真佐久
音楽: 黛敏郎
キャスト:西村晃(高橋吏一)、 春川ますみ(高橋貞子)、 赤木蘭子(高橋忠江)、露口茂 (平岡)
解説:
「にっぽん昆虫記」で土俗的ともいうべき日本人の本能的な生き方を、一女性を主人公に描いた今村昌平は、ここに自己の作家的な立脚点をさぐりあてたかのように、おなじ追及の姿勢で次作にのぞんだ。「赤い殺意」は藤原審爾の原作を今村昌平が長谷部慶次と脚色したものだが、できあがった作品には今村監督の個性が横溢している。
平凡な事務員の妻が強盗に押し入られたその日から、心と肉体の平衡を乱されるが、その乱れをサスペンス的要素を織り込みながら追う語り口に、今村監督特有の人間把握がみられて興味深い。主役春川ますみの起用にも新鮮味があって注目された。
あらすじ:
強盗が押し入った夜、夫の吏一は出張中であった。恐怖におののく貞子を殴打し、スタンドのコードで縛りあげ、獣のようにせまってくる男に、貞子は半ば気を失って呻いた。明け方強盗は再び貞子を犯して去った。
"死なねばならない"貞子は、土堤下を通る鉄路にふらふらと出てみたが、子供勝への愛情はたち難かった。
翌日出張から帰って来た夫に、何度かうちあけようとしたが、何も気づかない風の態度に、言葉をのんだ。東北大の図書館に勤める吏一には、事務員義子と五年も肉体関係がある反面、家庭では吝嗇で小心な夫であった。
再び強盗が貞子の前に現われたのは、あれから二日後の夜だった。乱暴なふるまいのあと、「もうじき死ぬんだ、あんたに優しくしてもらいたいんだ」と哀願した。
その夜吏一に抱かれながら、貞子は家庭の平和を乱したくないと苦悶した。だが、デパートの特売場で、強盗に声をかけられた貞子を義子が見てから、夫は近所の学生英二との間を疑うようになった。二月の初め、妊娠に気づいた貞子に、強盗は"腹の子は俺のだ"とせまった。
吏一の父清三の葬儀に行った貞子は、自分が妾腹だという理由で入籍されず、子供が清三の子になっているのを知り愕然とした。
数日後、強盗が合図の石を屋根に投げたのを聞いた夫が、英二のしわざと思いこみ嫉妬にかられて隣家に踏みこんだ。
夫に疑われて追いつめられた貞子は、強盗に会いにいく。
"エロ事師"より 人類学入門
1966年/128分/白黒 ワイド
スタッフ
監督: 今村昌平
原作: 野坂昭如
脚色: 今村昌平 沼田幸二
企画: 友田二郎
音楽: 黛敏郎
キャスト: 小沢昭一(スブやん)、坂本スミ(子松田春)、近藤正臣(松田幸一)、 佐川啓子 (松田恵子)、田中春男(伴的)
野坂昭如の原作を、「赤い殺意」の今村昌平と沼田幸二が共同で脚色、今村昌平が監督した社会風刺喜劇。撮影もコンビの姫田真佐久。
あらすじ:
人間生きる楽しみいうたら食うことと、これや。こっちゃの方があかんようになったらもう終りやで。スブやんこと緒方義元は、いつも口ぐせのようにこうつぶやくと、エロと名のつくもの総てを網羅して提供することに夢を抱いている。スブやんは関西のある寺に生れたが、ナマグサ坊主の父親とアバズレ芸者の義母の手で育てられた。高校を卒業して大阪へ出て来たスブやんは、サラリーマンとなったが、ふとしたことからエロ事師の仲間入りをしたのがもとで、この家業で一家を支えることになった。彼の一家とは彼が下宿をしていた松田理髪店の女主人で未亡人の春と彼女の二人の子供、予備校通いの幸一と中学三年生の恵子である。春にとっては思春期の娘をもって、スブやんを間に三角関係めいたもやもやが家を覆い、気持がいらつくばかりだ。そして、歳末も近づいた頃、遂に春は心臓病で倒れた。スブやんは病人の妻と二人の子供をかかえて、働くこととなった。しかし、スブやんはニュータイプの器具から足がついて、警官に拉致された。その頃、春の病状は思わしくなかった。出所したスブやんにはまた生気がよみがえってきた。数日後、酔いつぶれて帰って来た恵子に、スブやんはいとしさがこみあげて来た。事の成りゆきを知った幸一は家出した。「緒方はんいたづらしはるねん」死期の迫った春には、返す言葉もなかった。四月、春はスブやんの子供を身ごもったまま、恵子の写真を針でつきながら死んでいった。春と恵子を愛し、スブやんは幸一をも案じながら年をとっていった。それから五年、美容師に成長した息子の側で、白髪のスブやんは、エロ事師一世一代の仕事の植毛に眼をすえていた。
人間蒸発
1967年/130分/白黒
スタッフ
監督・企画: 今村昌平
撮影: 石黒健治
音楽: 黛敏郎
キャスト: 早川佳江、露口茂
あらすじ:
早川佳江さんは、幼いころに両親を亡くし、早くから自立した生活を送っていた。六人の兄妹もそれぞれ独立した生活を営んでいた。彼女が病院勤めをやめてある会社の事務員になった時、すでに婚期は過ぎていたが、その彼女に社長夫婦が縁談を持ち込んできた。相手は大島裁氏といい、プラスチック問屋のセールスマンで実直な好青年ということだった。二人の仲はそれから急速に進み、婚約を交したあと、昭和四十年十月に結婚式を挙げるまでになっていた。その年の四月十五日、大島氏が突然、失踪した。幾日が過ぎても彼女には何の連絡もなく、心配になった彼女は警視庁鑑識課の家出人捜査官を訪れた。しかし、それから一年半を経ても、大島氏の行方はわからなかった。映画監督今村昌平氏が早川さんのことを知ったのはこの頃のことである。早川さんの身辺の事情をくまなく調査した今村監督は、大島氏の失踪以来自分の殻に閉じこもってしまった早川さんを説き、大島氏の消息を彼女と一緒に尋ねるとともにその過程を映画にすることになった。彼女にとって、それは婚約者に失踪された現在の中途半端な気持を整理することであった。
神々の深き欲望
1968年/175分/カラー ワイド
スタッフ
監督: 今村昌平
製作: 山野井正則
脚本: 今村昌平 長谷部慶治
音楽: 黛敏郎
キャスト:三國連太郎(太根吉)、河原崎長一郎(太亀太郎)、沖山秀子 (太トリ子)、嵐寛寿郎(太山盛)、松井康子(太ウマ)
あらすじ:
今日もまた大樹の下で、いざりの里徳里が蛇皮線を弾きながら、クラゲ島の剣世記を語っていた。この島は、今から二十余年前、四昼夜にわたる暴風に襲われ津波にみまわれた。台風一過、島人たちは、根吉の作っている神田に真赤な巨岩が屹立しているのを発見した。神への畏敬と深い信仰を持つ島人たちは、この凶事の原因を詮議した。そして、兵隊から帰った根吉の乱行が、神の怒りに触れたということになった。根吉と彼の妹ウマの関係が怪しいとの噂が流布した。区長の竜立元は、根吉を鎖でつなぎ、穴を掘って巨岩の始末をするよう命じた。その日からウマは竜の囲い者になり、根吉の息子亀太郎は若者たちから疎外された。そんなおり、東京から製糖会社の技師刈谷が、水利工事の下調査に訪れた。文明に憧れる亀太郎は、叔母のウマから製糖工場長をつとめる亀に頼んでもらい、刈谷の助手になった。二人は島の隅々まで、水源の調査をしたが、随所で島人たちの妨害を受けて、水源発見への情熱を喪失していった。刈谷は、ある日亀太郎の妹で白痴娘のトリ子を抱いた。トリ子の魅力に懇かれた刈谷は、根吉の穴掘りを手伝い、クラゲ島に骨を埋めようと、決意するのだった。だが、会社からの帰京命令と竜の説得で島を去った。一方、根吉は、穴を掘り続け、巨岩を埋め終る日も間近にせまっていた。ところが、そこへ竜が現われ、仕事の中止を命じた。しかし、二十余年もうち込んできた仕事を徒労にしたくなかった根吉は頑として竜の立退き命令をきき入れなかった。豊年祈祷の祭りの夜、竜はウマを抱いたまま死んだ。そのあとで、根吉は、妹ウマを連れて島を脱出するが・・・・。
にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活
1970年/105分/白黒
スタッフ
監督・脚本: 今村昌平
製作: 堀場伸世 小笠原基生
撮影: 栃沢正夫
録音: 長谷川良雄
キャスト: 赤座たみ(母)、赤座悦子(長女)、赤座あけみ、赤座昌子、赤座千枝子
あらすじ:
横須賀の丘の上に一軒の立派な家がある。この家の主人公は、六十を越えた元気な婆さんである。今日はアメリカヘ遊びに行っていた長女がおみやげを買いこんで帰ってきた。彼女は、堂々と肥ったマダムである。お人好の次女も嬉しそうに話を聞いている。アメリカには三女が米軍のパイロットと結婚して住んでいて、今度子供が生まれたのを機会に長女が代表格で、行ってきたというわけである。悦子の娘たち、即ち婆さんの孫たちも、バスト1メートルをこえようというグラマーぞろい。女ばかり三代のバイタリティにあふれた一家である。彼女たちは戦後まもなく田舎をとび出して、女であるという条件を武器に奮戦してきた。原爆、ヤミ市、戦争孤児、パンパン狩り、彼女たちの特需景気もたらした朝鮮戦争。この一家に二十五年間の記録フィルムを見せ、それに触発されてあけすけに語られる感想や一家の生々しい記録。そこに戦後日本の歩みと、この一家の歩みがときに交錯し、ときに離れ、二つの流れとなって生きはじめる。そしてカメラはさらにこの一家の現実の生活にも鋭く斬り込んでくる。父権も夫権もないこの女三代。増殖するたくましい女たち。今もその生き方を変えようとしない女たち、彼女たちの戦後には日付はなかった。
復讐するは我にあり
1979年/140分/カラー ワイド
スタッフ
製作: 井上和男
脚本: 馬場当
監督: 今村昌平
撮影: 姫田真左久
音楽: 池辺晋一郎
キャスト:緒形拳(榎津厳)、 三国連太郎(榎津鎮雄)、 ミヤコ蝶々(榎津かよ)、倍賞美津子 (榎津加津子)、小川真由美 (浅野ハル)、清川虹子(浅野ひさ乃)
解説:
九州、浜松、東京で五人を殺し、詐欺と女性関係を繰り返した主人公の生いたちから死刑執行までを辿る。昭和五十年下期の直木賞を受賞した佐木隆三の同名の原作の映画化で、脚本は「ギャンブル一家・チト度が過ぎる」の馬場当、撮影は「野性の証明」の姫田真左久がそれぞれ担当。
あらすじ:
日豊本線築橋駅近くで専売公社のタバコ集金に回っていた柴田種次郎、馬場大八の惨殺死体が発見され、現金四十一万円余が奪われていた。かつてタバコ配給に従事した運転手榎津厳が容疑者として浮かんだ。榎津は駅裏のバー「麻里」のママ千代子を強姦、アパートに連れこんで関係を強要し続けるなど、捜査員の聞き込んだ評判も悪い。二ヵ月前までは、ヌードダンサー上がりで「金比羅食堂」をやっていた吉里幸子と同棲、母子家庭をガタガタにもした。数日後、宇高連絡船甲板に幸子と両親宛ての榎津の遺書と、一足のクツが見つかり、投身自殺の形跡があった。偽装と疑った警官が別府市・鉄輪で旅館を営む榎津の実家を訪れると、老父鎮雄、病身の母かよ、妻加津子は泣きながら捜査の協力を誓う。一家は熱心なカトリック信者だが、戦争中、厳は、網元をしていた父が軍人に殴られ、無理矢理、舟を軍に供出させられた屈辱の現場を目撃して、神と父への信仰を失い、預けられた神学校で盗みを働いて少年刑務所へ送られ、その後も犯罪と服役を繰り返しその間に加津子と結婚した。結婚後、加津子も入信したが、榎津に愛想をつかし離婚、その後、尊敬する義父の懇望に従って再入籍。榎津は出所する度に父と加津子との仲を疑い、父に斧を振り上げるなど、一家の地獄は続いた。浜松に現われた榎津は貸席「あさの」に腰をすえ、大学教授と称して静岡大などに出没、警察をあざ笑うような行為を重ねる。千葉に飛んだ榎津は裁判所、弁護士会館を舞台に、老婆から息子の保釈金をだまし取り、知り合った河島老弁護士を殺して金品を奪った。この頃になると警察史上、最大といわれる捜査網が張りめぐらされる。浜松に戻った榎津の素姓に「あさの」の女あるじハルやその母のひさ乃も気づき始めた。しかし、榎津に抱かれるハルはその関係に溺れ、元殺人犯で競艇狂いのひさ乃も榎津を逃そうとする。だが、そんな母娘を榎津は絞め殺し、「あさの」の家財を売り飛ばし、電話まで入質して逃亡資金を貯え、七十八日後、九州で捕まるまで詐欺と女関係を繰り返した。
ええじゃないか
ビスタサイズ/フジカラー/151分
スタッフ
製作: 小沢昭一 友田二郎 杉崎重美
原作: 今村昌平
脚本: 今村昌平 宮本研
撮影: 姫田真左久
音楽: 池辺晋一郎
美術: 佐谷晃能
キャスト:桃井かおり(イネ)、泉谷しげる(源次)、緒形拳(古川条理)、露口茂 (金蔵)、草刈正雄(イトマン)、田中裕子(お松)、樋浦勉 (三次)、丹古母鬼馬二(ゴン)、火野正平(孫七)、倍賞美津子(お甲)、寺田農(伊集院主馬)
解説:
江戸時代末期に発生したええじゃないか騒動や百姓一揆など騒然とした世相を背景に江戸東両国界隈に生きた下層庶民のバイタリティ溢れる生活を描く。脚本は「復活するは我にあり」の今村昌平と宮本研の共同執筆、監督も同作の今村昌平、撮影も同作の姫田真左久がそれぞれ担当。
あらすじ:
慶応二年、日本は激動期の真只中にあった。源次はそんな江戸へ六年ぶりにアメリカから帰って来た。上州の貧農の出の源次は横浜港沖で生糸の運搬作業中に難破し、アメリカ船に助けられ、そのまま彼の地に渡ったのだ。その間、妻のイネは、病身の父に売られ、現在、東両国の"それふけ小屋"(ストリップ劇場)で小紫太夫と名乗って出演している。源次はなんとかイネを発見、六年ぶりの再会に二人は抱きあった。見せ物小屋の立ち並ぶ東両国は、芸人、スリ、乞食、ポン引きなどアブレ者の吹き溜り。源次は三次、孫七、卯之吉、旗本くずれの古川など、したたかな連中に混ってそこに居ついてしまう。そして、金蔵がここら一帯を取り仕切っている。自由の国アメリカが頭から離れない源次は、イネを誘いアメリカ渡航を計るが、結局、彼女はこの猥雑な土地を見捨てられず、彼もイネの肉体にひかれて残ってしまう。この頃、幕府と薩摩、長州連合の対立は抜きさしならないところにきており、金蔵は薩摩の伊集院などの手先となって、一揆の煽動など、天下を騒がす仕に飛びまわっていた。「ええじゃないか ええじゃないか」と(世直し)の幟やムシロ旗を立てた群衆は次々と豪商の倉を襲っていった。この群衆の中に、金蔵配下の源次、ゴンたちがアジテーターとしてまぎれこんでいた。更に、この騒ぎの中に親兄弟を虐殺された琉球人のイトマンが仇の薩摩藩士の姿を求めて鋭い目を光らせていた。そして、「ええじゃないか」の勢いは止まるところを知らず、群集は、歩兵隊の制止も聞かず、大橋を渡ろうとした。「死んだってええじゃないか」源次が仆れた。数日後、復讐をとげたイトマンの舟が琉球へとすべり出した。舟を見送るイネ。その翌年、元号は明治となるのだった。
楢山節考
1983年/131分/カラー ワイド
スタッフ
製作: 友田二郎
原作: 深沢七郎
脚本・監督: 今村昌平
撮影: 栃沢正夫
音楽: 池辺晋一郎
美術: 芳野尹考
キャスト:緒形拳(辰平)、 坂本スミ子(おりん)、あき竹城(玉やん)、倉崎育児(けさ吉)、高田順子(松やん)、嶋守薫(とめ吉)、左とん平(利助)、辰巳柳太郎(銭屋の又やん)
解説:
信州の山深い寒村を舞台に、死を目前にした人間の生き方を描く。深沢七郎の同名小説と「東北の神武たち」の映画化。
あらすじ:
おりんは元気に働いていたが今年楢山まいりを迎えよぅとしていた。楢山まいりとは七十歳を迎えた冬には皆、楢山へ行くのが貧しい村の未来を守る為の掟であり、山の神を敬う村人の最高の信心であった。山へ行くことは死を意味し、おりんの夫、利平も母親の楢山まいりの年を迎え、その心労に負け行方不明となったのである。春。向う村からの使の塩屋が辰平の後添が居ると言って来た。おりんはこれで安心して楢山へ行けると喜ぶ。晩秋、おりんは明日山へ行くと告げ、その夜山へ行く為の儀式が始まった。夜が更けて、しぶる辰平を責め立てておりんは楢山まいりの途につくのであった。
うなぎ
1997年/117分
スタッフ
監督・脚本: 今村昌平
原作: 吉村昭
脚本: 冨川元文 天願大介
撮影: 小松原茂
音楽: 池辺晋一郎
キャスト:役所広司(山下拓郎)、清水美砂(服部桂子)、倍賞美津子(中島美佐子)
あらすじ:
1997年度カンヌ映画祭で見事グランプリに当たるパルム・ドールを獲得。「黒い雨」以来、8年の空白を経て、ベテラン今村昌平が発表した人間ドラマである。吉村昭の小説「闇にひらめく」を原作に、飼っているウナギにしか心を開かない男の心情の移ろいを見極めようとしている。浮気した妻を殺害し、8年の服役の後、仮出所した男、山下拓郎。理髪店を開き、自戒の日々を送る彼は、周囲の人々に心を開くことはなかった。そんなある日、山下は自殺未遂の女性、桂子と出会い、彼女の希望から共同生活を始めることになる。彼女の優しい人柄にふれ、打ち解けていく山下だったが、そんな彼の前にかつての囚人仲間が、さらに桂子の夫までもが現れる・・・・。静かな語り口ながら、鋭い人間観察の目が随所に光る佳作。とぼけた笑いも盛り込まれ、今村の初期作品を思わせる仕上がりとなった。役者陣もそろって好演を見せるが、特に桂子の母親役の市原悦子が怪演を披露して印象的。